田中史子の
つぶやきコラム
田中史子が日々の弁護士業務に
おいて感じていること、
考えていることについて
お伝えさせていただきます。
※当事務所は、当ウェブサイトの内容の正確性・妥当性等につきましては細心の注意を払っておりますが、その保証をするものではありません。 また、当ウェブサイトの各情報は、掲載時点においての情報であり、その最新性を保証するものではありません。
※当事務所は、当ウェブサイトの内容の正確性・妥当性等につきましては細心の注意を払っておりますが、その保証をするものではありません。 また、当ウェブサイトの各情報は、掲載時点においての情報であり、その最新性を保証するものではありません。
TOP > 田中史子のつぶやきコラム > 悪意の遺棄
2018.2.23
悪意の遺棄
民法770条1項2号では、「配偶者から悪意で遺棄されたとき」を離婚原因として挙げています。ここでの「悪意の遺棄」とは、どのようなことをいうのでしょうか。
この点、「悪意の遺棄」とは、正当な理由なくして、夫婦の同居協力扶助義務に違反する行為であり、相手方を捨てて家出をする行為だけではなく、相手方を追い出したり、いたたまれなくなって出て行かざるを得ないように仕向ける行為も含みます。
では、夫(もしくは妻)が、妻(もしくは夫)との同居や扶助を拒むことに正当な理由がある場合とは、どのような場合でしょうか。
最高裁の昭和39年9月17日判決は、妻が夫の意思に反して自分の兄らを同居させ、兄と親密にして夫をないがしろにし、かつ兄等のため、ひそかに夫の財産より多額の支出をしたため、夫が妻との同居を拒み、扶助義務も履行しなくなったという事案において、婚姻関係の破綻について妻が主たる責めを負うべきであり、夫が妻を扶助しないことは、悪意の遺棄に該当しないものとしました。このような場合であれば、夫が妻との同居や、扶助を拒むことに正当な理由があるということです。
一方、「悪意の遺棄」を認めた裁判例として、東京地方裁判所平成28年2月23日の判決があります。この事例は、平成13年に妻が自宅玄関のドアチェーンをかけて夫を自宅に入れないようにしたため、夫が別居することになりました。妻はいったんは離婚を決意していましたが、その後、夫が毎週末に自宅に通うようになり、夫婦が互いに婚姻関係の修復を図ろうとしたものの、夫が平成21年頃から自宅に通うのをやめ、収入のない妻に対し、婚姻費用の支払いを徐々に減額し、ついには全く支払わなくなったというものです。
これについて上記判決は、「原告(夫)と被告(妻)は、原告が被告に対して横暴な言動を重ねたことによって別居するに至り、その後、互いに婚姻関係の修復を図ろうとしたものの、別居前の禍根が尾を引き叶わず、原告が自宅に通うのをやめ、婚姻費用を全く支払わなくなったこと(悪意の遺棄)が最後の引き金となって、婚姻関係が破綻し、離婚するに至ったものと認められる。」としています。
この判決を読むと、平成13年に妻が玄関のドアチェーンをかけて夫を自宅に入れないようにしたことが別居のきっかけとなっているのですが、そもそも妻がそのような行動に出た原因は、夫の横暴な言動を重ねたことにあるとして、夫の責任を重く見ています。
そもそもの離婚の原因はどちらにあるのか、という点については、双方に言い分はあると思います。ただ、離婚が成立する前に、夫が婚姻費用の支払いを徐々に減額し、ついには全く支払わなくなった、ということについては問題があったと言わざるを得ないのではないかと思います。