田中史子の
つぶやきコラム
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2018.1.9
違法な監護の開始と親権者の適格性
子どもを一定期間継続して監護養育している親であっても、その監護が、子どもの連れ去り等の違法な行為によって開始されたものであるときには、そのことは親権者指定の判断要素とされます。
それまでの子どもの安定した生活を実力で変更することが、子どもの福祉に反する行為であると考えられ、そのような行為をする親は、親権者の適格性に問題があるということになるからです。
この点、妻が子どもを連れて別居し、夫が調停、審判を申し立てている状況にもかかわらず、夫が両親と共に、自動車で子どもを待ち伏せし、強引に抱きかかえて奪取した、という事案についての裁判所の判断があります(東京高等裁判所平成17年6月28日決定)。
この決定の原審である東京家庭裁判所は、上記の夫の奪取行為が違法であることを認めながら、子の福祉を判断する上で必要な諸事情の中の一要素として考慮すべきであるとし、夫を子どもの監護者と認めました。
しかし、東京高等裁判所は、それまでの妻による監護養育状況に特段の問題が見当たらない状況の下で、これを違法に変更する奪取行為がされた場合は、奪取行為があったことを重視すべきは当然のこと、としました。
そして、このような状況において、夫を監護者と定めることは、明らかな違法行為をあたかも追認することになるから、そのようなことが許される場合は、特にそれをしなければ子どもの福祉が害されることが明らかといえるような特段の事情が認められる場合に限られる、としました。
ここで「特段の事情」とは、妻のもとに子どもがいたのでは、虐待されるおそれが高いとか、妻が子どもの監護養育を放棄する事態が容易に想定される場合であるとか、妻の監護養育環境が夫の監護養育環境と比較して著しく劣悪であるような場合が挙げられています。
すなわち、夫(もしくは妻)の下から、妻(もしくは夫)が子どもを強引に奪取して監護を開始しても、よほどの事情がない限り、裁判所で監護者と認められることは難しいということになります。もし、このような場合に、子どもを奪取した側の親に監護権が認められることになると、実力での子どもの奪い合いになりかねず、そうなると一番傷つくのは子どもです。そのことからすれば、裁判所が、子どもを奪取して監護を開始した親に対し、厳しい判断をするのは相当だと考えます。