田中史子の
つぶやきコラム
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2017.12.26
離婚後の建物明渡請求
離婚訴訟において、自宅がいわゆるオーバーローン(住宅ローンの残額が自宅の価値よりも高い)の場合、自宅の価値はゼロとして、財産分与の対象からはずされるというのが、裁判実務上の取り扱いのようです。
自宅の名義人も、住宅ローンの名義人も夫(もしくは妻)で、夫(もしくは妻)がそのまま自宅に住み続け、ローンを払い続けるというのであれば、それで問題ないと思います。
では、自宅の名義と住宅ローンの名義が夫(もしくは妻)であるが、離婚時、妻(もしくは夫)が自宅に住んでいて、妻(もしくは夫)に自宅を明け渡してもらう必要がある場合は、どうなるのでしょうか。
この点、離婚時に自宅の明け渡しについても、きちんと取り決めをしておけば、後日のトラブルを防ぐことができます。離婚後、いつまでに自宅を明け渡すのか、明け渡し期限に遅れた場合の損害金はいくらにするのか、明け渡し時に残っている荷物の処分費用はとちらが負担するのか等です。弁護士が代理人として協議する場合には、これらの事項についても取り決めをしておくようにしますし、調停や裁判上の和解の場合にも、こうした取り決めをすることができます。
問題なのは、自宅の明け渡しについての具体的な取り決めをすることができないまま、単に自宅が財産分与の対象からはずされて、離婚訴訟の判決が出されたが、妻(もしくは夫)が自宅を明け渡してくれない場合です。
この点、離婚訴訟後、夫が妻に対し、自宅の明け渡しを求めた裁判において、「不動産が財産分与の計算においてオーバーローン又は残余価値なしと評価され、財産分与の対象財産から外されたとしても、離婚訴訟を担当した裁判所が特有財産から支出された金員につき何ら審理判断をしていない以上、離婚の際の財産分与とは別に、当該不動産の共有関係について審理判断がされるべきである。」としたものがあります(東京地方裁判所平成24年12月27日判決)。これは、夫名義の自宅の購入にあたり、妻の結婚前の預金を解約して800万円を支出している事例でした。
上記判決では、妻が結婚前の貯金からの支出のみでなく、さらに、同居期間中に夫が支払っていた住宅ローン額の2分の1や、別居後の婚姻費用の支払額が住宅ローンの支払額を考慮して減額されていたことなども考慮し、少なくとも自宅の3分の1を妻の持ち分としました。そのため、夫からの自宅の明渡請求は認められませんでした(そのかわり、妻が夫に対し、賃料を支払ことが命じられました)。
この事例は、夫が自宅の鍵を壊して鍵を取り換え、妻から自宅の明け渡し訴訟を起こされる等、様々な事情があったようですが、離婚時に建物の明け渡しについてまできちんと取り決めをしておかなければ、後々、またトラブルが発生する恐れがあるということは確かですので、十分注意が必要ですね。