田中史子のつぶやきコラム

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2024.8.30

メールでの婚姻費用の合意

夫婦の別居後、婚姻費用(生活費)の金額についてメールのやりとりで合意した場合、後日の調停・審判で、それ以上の婚姻費用額を請求することはできないのでしょうか。

この点、メールでのやりとりであっても、確定的な合意が成立している場合には、事情の変更がないかぎりそれ以上の請求はできないことになります。
ただ、婚姻費用を調停や審判で正式に決めるまでには時間がかかるため、それまでの仮の金額として定めたとも考えられることから、メールでの合意がどちらの趣旨であったのかが問題となります。

この点、夫からの「(生活費を)5万円とさせてください。」とのメールに対し、妻が「5万円で承諾しました。」と返信していたが、そのやりとりの翌々月に、妻が婚姻費用分担調停を申し立てた事例があります(東京高等裁判所令和5年6月21日決定)。
この事例の1審の審判では、メールでの合意は確定的なものと認定して、婚姻費用は月5万円とされました。
しかし、上記審判の抗告審(高裁)においては、婚姻費用についての合意があったとは認めず、双方の収入等に応じた基準で計算し、婚姻費用額を月11万円と決定しました。

上記決定は、①月5万円という合意をする前に、両者の収入等をふまえた具体的な協議はしていないこと、②両者は別居中の婚姻費用と、離婚に伴う養育費とを区別できていたかも疑問があること、③生活費についてのやりとりの翌々月には、妻は婚姻費用分担調停を申し立てていることから、「後に両者の収入等を踏まえて具体的な協議や審判手続き等を経て婚姻費用の分担額が定められるまで、とりあえず暫定的に支払われる額について提案と承諾がされたにとどまる」としています。

「5万円で承諾しました。」との文言のみを見れば、確定的な合意があったとも考えられますが、文言のみを見るのではなく、その前後の状況も考慮して判断する必要がある、ということになります。

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