田中史子の
つぶやきコラム
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2021.7.5
未払婚姻費用と財産分与
夫婦の別居後、婚姻費用が支払われていない、もしくは支払われてはいるが金額が少ない場合、離婚時の財産分与において、未払いの婚姻費用額を考慮することはできるでしょうか。
民法は財産分与の規定において「家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」としています(768条3項)。
そして、最高裁は、「離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法七七一条、七六八条三項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。」と判断しています(最高裁昭和53年11月14日判決)
すなわち、離婚訴訟において、未払いの婚姻費用についても裁判所が考慮し、財産分与の額及び方法を定めることもできるということです。
しかし、未払いの婚姻費用が必ず考慮されるということではなく、具体的な事情によって「考慮することもできる」という事に留まります。
この点、離婚訴訟において、妻が40年近く別居している夫に対し、過去の未払婚姻費用として2900万円を請求した事例において、裁判所は未払婚姻費用の清算を認めませんでした(東京高等裁判所平成元年11月22日判決)。
上記判決が未払婚姻費用の清算を認めなかった理由として、夫は別居時に妻に建物を分与していることや、妻がこれまで婚姻費用分担の申し立てを行っていない事等を挙げています。
もっとも、本件は夫が不貞行為を行ってその相手と同棲し、2人の子どもも生まれている一方、妻には40年間何らの経済的援助をしてこなかったことから、裁判所は、「悪意の遺棄」を認定し、慰謝料1500万円を認めています。
また、妻が高齢で今後の自活能力がないことから、今後の生活費にかかわる財産分与として1000万円の支払いを認め、結局、合計2500万円の支払いを夫に命じています。
これは、夫の悪意の遺棄により、40年近く別居しているという事情のもと、過去の婚姻費用の未払いを、実質的に今後の生活費や慰謝料で考慮したものと考えられます。
婚姻費用の協議が整わないときには、本来婚姻費用分担調停・審判で取り決めるのが原則であり、未払婚姻費用が離婚時の訴訟で考慮されないことも多いと思いますので、婚姻費用が支払われていない、もしくは支払われているが金額が少ないという場合には、早期に婚姻費用分担調停を申し立てた方がよいと思います。