田中史子のつぶやきコラム

田中史子の
つぶやきコラム

田中史子が日々の弁護士業務に
おいて感じていること、
考えていることについて
お伝えさせていただきます。

※当事務所は、当ウェブサイトの内容の正確性・妥当性等につきましては細心の注意を払っておりますが、その保証をするものではありません。 また、当ウェブサイトの各情報は、掲載時点においての情報であり、その最新性を保証するものではありません。

※当事務所は、当ウェブサイトの内容の正確性・妥当性等につきましては細心の注意を払っておりますが、その保証をするものではありません。 また、当ウェブサイトの各情報は、掲載時点においての情報であり、その最新性を保証するものではありません。

TOP > 田中史子のつぶやきコラム > 財産分与における建物明渡命令について

2021.2.25

財産分与における建物明渡命令について

元夫(もしくは元妻)名義の自宅建物に、離婚後も元妻(もしくは元夫)が居住している場合、財産分与の審判で、元妻(もしくは元夫)に対する建物の明け渡しも命じることはできるのでしょうか。
不動産の名義人である元夫(もしくは元妻)が財産分与で不動産を取得した場合、別途民事訴訟で元妻(もしくは元夫)に対する明渡し請求をすることができるため、財産分与の審判では建物の明渡しまでは命じられないのではないかが、問題となります。

この点、最高裁判所(令和2年8月6日決定)で、財産分与の審判で建物の明渡しも命じることができるとの判断が示されました。

上記決定は、「財産分与の審判において、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることとされている(民法768条3項)。もっとも、財産分与の審判がこれらの事項を定めるものにとどまるとすると、当事者は、財産分与の審判の内容に沿った権利関係を実現するため、審判後に改めて給付を求める訴えを提起する等の手続きをとらなければならないこととなる。そこで、家事事件手続法154条2項4号は、このような迂遠な手続きを避け、財産分与の審判を実効的なものとする趣旨から、家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者に対し、上記権利関係を実現するために必要な給付を命ずることができるとしたものと解される。」としました。
その上で、「家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の財産につき、他方当事者に分与する場合はもとより、分与しないものと判断した場合であっても、その判断に沿った権利関係を実現するため、必要な給付を命ずることができると解することが上記の趣旨にかなうというべきである。」としました。

すなわち、財産分与の審判で、自宅建物を元夫(もしくは元妻)が取得することになっても、元妻(もしくは元夫)が自宅建物を明渡してくれない場合、さらに明渡し訴訟を起こさなければならないとすると、手続きが大変なので、財産分与の審判で一挙に解決できるようにした方がよいという事ですね。

上記判決の原審(東京高等裁判所令和1年6月28日決定)は、「自己の所有建物について、占有者に対して明渡しを求める請求は民事訴訟ですべきものであって、これを家事審判手続で行うことはできない」としていました。
しかし、それでは財産分与の審判の実効性がなくなる上、何度も法的手続きを繰り返さなければならないというのは当事者にとって負担が大きいので、上記最高裁の判断は相当だと思います。

  • プロフィール
  • お客様の声