田中史子の
つぶやきコラム
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2018.11.3
借金のある夫(もしくは妻)からの財産分与
夫(もしくは妻)に多額の借金があり、それに比して財産がわずかしかない場合、離婚にあたって妻(もしくは夫)は、財産分与を受けることはできるでしょうか。
夫(もしくは妻)が借金をしていて、今後の生活が不安、というご相談は多くお聞きします。夫(もしくは妻)の借金の原因が浪費等であり、今後も浪費が改善される見込みがない場合、自分や子どもの生活を守るために、離婚という決断をすることもやむを得ない場合があると思います。
では、そのような場合に夫(もしくは妻)から財産分与を受けてもよいのでしょうか。
民法424条は「詐害行為取消権」を規定し、債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができるとしていることから、問題となります。つまり、債権者が、妻(もしくは夫)に対し、財産分与する財産があるのであれば、先に借金を返済してほしい、と言って裁判をしてきた場合、財産分与として受けた財産を返さなければならないのか、という問題です。
この点、最高裁判所昭和58年12月19日判決においては、妻(もしくは夫)への財産分与が、不相当に過大であったり、財産分与を装った財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消しの対象とはならないとしています。
これは、結婚後、夫婦でクリーニング業をしていたが、その後、クリーニング業は妻に任せ、夫は不動産業、金融業を始めて盛大に事業を行っていたものの、夫は不貞行為で子どもまでもうけた上、多額の負債を抱えて倒産した、という内容です。それにより、妻は離婚を決意し、慰謝料を含めた財産分与として夫から土地の譲渡を受けました。
上記判例においては、本件土地は妻の経営するクリーニング店の利益から購入したものであることや、離婚原因は夫の不貞行為によるものであること、本件土地は従来から妻の生活の基盤となってきたものであり、妻と子どもらはこれを生活の基礎としなければ今後の生活設計の見通しが立てがたいこと、その他婚姻期間、妻の年齢などの諸般の事情を考慮し、本件土地が夫にとって実質的に唯一の不動産に近いものであることを考えても、妻に対する本件土地の譲渡が離婚にともなう慰謝料を含めた財産分与として相当なものということができる、としました。
要するに、夫(もしくは妻)に借金があっても、離婚の際の財産分与は、夫婦の生活状況や離婚原因等に照らし、相当な範囲のものであるかぎり、詐害行為とはならないということですね。